起業・開業時の事業計画書とは
「起業・開業するなら、まずは事業計画書(創業計画書)を作ろう」。そんな言葉を目にしたり耳にしたりすることは多いと思います。では、この事業計画書とはどのようなもので、なぜ起業時に作っておく必要があるのでしょうか。ここでは、事業計画書について、簡単にですが説明していきます。事業計画書の必要性
会社をを設立するにあたり、または店舗を開業するにあたり、なぜ事業計画書を作っておく必要があるのでしょうか。そのもっとも大きな理由は、あなたの頭の中にあることは、他の人には分からないから、そして場合によってはあなた自身も分からないから、ということにあります。
頭の中の思いや構想は、口で説明するだけでは伝わりにくい
あなたの思い描く事業に将来性があり、また独創性が高いものであり、さらに堅実的な計画を立てていたとしても、それがあなたの頭の中だけにしか存在せず、口頭でしか説明ができないというのでは、残念ながら他人にはほとんど伝わりません。話を聞かされた相手は、あなたが本気で事業に取り組むつもりなのか、ただ漠然とした希望を述べているのかさえ、判断が つかないことも多いでしょう。
この自分と他人との間のに存在する大きな壁は、実際に起業を計画して、その計画を親しい友人や家族に話したことのある人なら、一度は実感したことがあるはずです。そして、その後に"事業計画書"を作成して再度自分の思いを伝えた経験があるのなら、目に見えるモノにすることが、どれだけ他者に対して影響を与えるのかということ、文章に落とし込むことで説得力が増すのかということを、実感したはずです。
事業計画書を作成する目的
ところで、この自分の頭の中にある計画を具体化させるモノとしての、起業時における"事業計画書"ですが、次の3つの大きな目的から作成されることがほとんどです。
- 起業時の融資を申請するために作成する(日本政策金融公庫などへの提出)
- 新規の取引先やパートナーに閲覧させるために作成する
- 経営者が自らの思いを確認するために作成する
それぞれの目的について、もう少し詳しく確認していきます。
理由その1 融資の申請時に事業計画書を提出するため
一つ目の理由は、日本政策金融公庫などの公的な金融機関や銀行などから、事業に必要な資金を融資してもらう際に、事業計画書の提示や提出が必要とされるためです。とりわけ起業・開業直後の会社は、金融機関にとって事業の収支がまだ何も分からない状況ですから、経営者がどのような思いで、どういった計画の下に事業を行おうと しているのか、これからの事業計画を重視せざるをえません。
たとえば、日本政策金融公庫の創業融資制度の場合、申請には日本政策金融公庫が用意する"創業計画書"の提出を要求されます。この創業計画書を説得力があり完成度の高いものとするためには、事前にしっかりとした事業計画書を作成して、そこから記載すべき情報を抽出するかたちでまとめることが必要になってきます。
より具体的には、事業を行う店舗等の立地条件、取り扱う商品のニーズや仕入れ先等を十分調査して作成した事業計画書があるからこそ、取扱商品やセールスポイントといった欄に、計画全体の中の一部として、他の計画と結合した説得力を持つ記載をすることができるということです。漠然と、なんとなく記入し た創業計画書では、融資の下りる可能性が各段に低下してしまいます。特に不況下の昨今、融資に関しては基準が厳しくなる方向にシフトしていますから、他の 融資申込者より一歩抜きんでる(差別化を図る)ためには、事業計画書から創業計画書への落とし込みが大事になってきます。
ところで、この融資申請時に利用する事業計画書は、最終的に添付書類として申請した金融機関にそのまま提出することがほとんどです。結局は資料として吟味されるわけですから、早めに準備して、充実した内容の計画書を作っておくほうが良いでしょう。
理由その2 仕入れ先や共同経営者などとの意思疎通のため
融資申請の相手方である金融機関と同じように、仕入れ先や取引先事業者、雇用予定者などに対しても、会社や経営者が信頼を得るために事業計画書を提示する必要が生じることがあります。
どのような考えから、何を目的として、いかなる計画の下に商売上の関係を築こうとしている人物であるのか。実現・継続が可能な計画のもとに、お付き合いを始めようとしている会社であるのか。言葉だけでは、相手になかなか伝わりません。経営者であるあなたの思いを理解してもらうためには、やはり文書というかたちで提示するこ とが効果を持ってきます。
また、友人や元同僚などと複数人で会社を設立する(事業を行う)という場合にも、事前に事業計画書を作成する意味は大きいものとなります。具体的な起業手続きが始まるまで散々話し合ったはずの共同経営(予定)者であっても、事業の計画書を共同作業で作成してみると、まだまだ齟齬のある部分やすり合わせがう まくいっていない点が多々出てきて驚くことも多いことでしょう。
最終確認として事業計画書を共同作業で作り上げることは、事業がスタートする前に問題点を修正するという意味において、起業準備の大切な作業になります。内部自治が相対的に広い合同会社などを設立する際は、経営前に各社員の役割などをより具体化しておく必要があるでしょう。
理由その3 経営者が自分の思いを確認するために
起業や開業前の頭の中を整理整頓するため
説明の順番的には最後になっていますが、実はこれが事業計画書の最も大切な目的といえるものでしょう。自分の頭の中では実現可能なように思える計画でも、文章化・数値化してみると、実際にはどう組み合わせても不可能に近いものだということに気づく可能性があるからです。
自分一人頭の中で思っているだけ、また知人に話してみるだけなら簡単でも、それを文章に書きだしていくだけで、とたんに計画の各要素同士の不結合や破綻部分が顕在化するというわけです。文字通り、将来の事業を計画するための事業計画書の作成です。
これは、換言すれば複数人で起業する際のすり合わせ不足や齟齬が、自分の頭の中で生じているような状態です。この問題が多額の資金を投入し て会社を設立した後などに顕在化してくると、その軌道修正がかなり困難になってしまいます。自分が抱いている思い(ここでは、主に計画面)を、事業計画書を作成する作業を通じて、何度も考察し、繰り返し構築していく必要があります。
会社の設立後、店舗の開店後、経営に迷わないために
また、会社の設立後や店舗の開店後においても、経営者が自分の思いを確認するための道標として、また立てた計画通りに事業が展開されているかを確認するための羅針盤として、事業計画書は重要な役割を果たしていきます。
一度事業がスタートしてしまうと、経営者はなにかと忙しく、事業がどのように進んでいるのかを精査する時間を持つことが難しくなってしまいます。また「市場の変化に対応したほうがよいのでは?」「顧客の要望をより重視したほうがよいのでは?」などと外部要因に振り回されやすくなり、いつの間にか当初の思いやターゲットとは違った方向へ向き、惰性で流れてしまいがちです。
そんな状況において、経営理念をしっかりと表わした事業計画書が用意されていれば、最初に抱いていた思い(ここでは主に、理念や信念)を確認することができます。意識的にしろ無意識的にしろ、事業内容が計画からずれていってしまうという危険を回避することができるのです。
設立した会社のコンセプトは、そもそも何だったのか。外部の要因を考慮に入れるとして、初期の計画を妥協してでも修正すべき点はどこなのか。そして、修正や場合によっては妥協が許される範囲はどれほど残されているのか。これだけは妥協できないという、幹の部分はどこなのか。事業計画書は、それらを判断する際の基準として、 他でもない経営者であるあなたの助けになるものです。
理念や信念を幹とする事業計画書を作るために
この経営理念を中心とした、羅針盤的な事業計画書ですが、できれば事業計画書の作成についてのノウハウを書籍やインターネットなどで仕入れる前に、思ったまま自由に書いてみることをおすすめします。
構成や実現可能か否かはあまり気にせずに、とにかくかたちにしてみてください。というのも、たとえば最初から"融資を 受けるため"といった一定の具体的目的を持った事業計画を作成しようとして、細かな知識を仕入れてしまうと、経営者の思い入れ部分のダイナミックさが削がれることが多いためです。
事業計画書を初めて書くときには、あまり形式には拘らず、もっとも原始的で荒削りの、あなたの起業に対する率直な思いを書きなぐることが大切です。最初は具体的な計画がいくつも思い浮かぶということはないでしょうから、A4用紙1枚に簡単に箇条書きにしていくのでもいいでしょう。
起業にあたっての事業計画書には、この後の会社設立手続きの過程で確定していくことも反映させていきますので、会社の設立が完了するまで(店舗の開店するまで)、随時修正・加筆していくことになります。しかし、繰り返しになりますが、最初の最初に書いた起業に対する思いだけは、コピーするなりして別に保存しておき、修正していく うちに原始の事業計画が消えてしまうことのないようにしてください。
出来上がった事業計画に、保存しておいた原始の事業計画の思いを注ぎ込むことで、冷静な計画と熱い思いを両立させた起業時の事業計画書が完成するはずです。